3 What is learning?
この章では、構成主義または社会構成主義について紹介する。この考え方は、learning oriented assessment (LOA)を発達させるために一番貢献する学習パラダイムである。
そしてLOAを構成するブロックを見ていくことにする。そのブロックとは、タスク、足場がけ、フィードバック、生徒と教師の役割の4つである。
3.1 Constructivism
Jonassen and Land (2012)の論文?の序論では、以下のことが述べられていた。
「1990年代は学習理論における実質的なかつ革命的な変化を目撃した年代であった。現代では、学習の社会的または構成主義的な概念は、存在論的または認識論的基礎の上に成り立っている。私たちは、学習理論の新しい時代に突入したのだ。」
ピアジェに関連する認知構成主義の考えでは、学習者は直ちに理解し使用するような情報を与えられることはできない。むしろ、彼らの知識体系を構築しなければならないとしている。
教育における構成主義は近年、学習における社会的または文化的状況に焦点を置いた理論家に依拠している。
社会構成主義は、ZPDを唱えたヴィゴツキーと関連がある。ヴィゴツキーの考え方は、学習と発達の重要な違いを作っている。
「すでに到達した発達段階に即した学習は、子供の全体的な発達の観点から考えると効果はない。それは発達プロセスの新しいステージを開くことを目的にしていない。良い学習とは発達に先立つ学習だけである。」
3.1.1 Constructivism and situated cognition
構成主義者が立脚する認知と社会という2つの立場は、決して対立はしてないが、situated cognitionの概念内では、その2つは異なっているようである。
Wilson and Myers (2000)は、situated cognition theoryに対して、個人と社会を統合する可能性を秘めたものであると説明を加えている。もちろん、認知の発達を社会的な文脈に置くことで、(社会のもしくは認知発達の)描写の段階で複雑性を足すことになる。
Bronfenbrenner (1979)のecological systems theoryは、学習者の広い環境を「複雑でダイナミックなシステム (complex dynamic system)であるとし、相互作用を5つの段階に分けた。
エコロジカルシステムは、人間と環境の研究に取り組む心理学者と社会科学者の研究方法に大きな影響を与えた。
3.2 An appropriate model of cognition and learning
LOAの中心部分に据える学習の社会構成主義的モデルは、言語学習に最適であるようだ。CEFRによって提唱された行動に基づく言語学習の一貫性について説明した。Chapter 6 では、Cambridge English approachについて説明する予定である。
Cambridge English Language Assessmentは、教育測定及び学習と指導の間にある関係性を再定義しようとしている唯一のものではない。しかし、エコロジーの概念や認知と学習のモデルを発達させるために、著者らのアプローチは上記のような評価とは異なるものにするという選択をした。
アメリカで行われているプログラムは、より強力な統計方法によって支えられており、能力の詳細なモデルを行うことを見据えている。
このプログラムにおいては、標準テスト理論に存在する暗示的な人間の能力観を見出した、Frederiksen, Mislevy and Bejar (1993)まで遡る。この見解において、特性に基づく測定は能力の複雑性を捉えることに失敗している。
このプログラムは、Educational Testing Service (ETS)が行ってる大きな2つのプロジェクトを通して追求されて来た。1つ目は、証拠に基づくデザイン (evidence-center design: ECD)で行われている。2つ目は、認知診断的アプローチ (cognitive diagnosis approach: CDA)である。認知への焦点は形成的評価に関係しており、Pellegrino et al (2001)によって先導されている。
しかしながら、この認知的アプローチはメタ認知的問題解決に焦点を置いているため、「発達と学習は社会的プロセスである」という社会構成主義的な洞察を欠いている。ゆえに、カリキュラム上の達成と概念の理解に焦点を当てており、形成的な教室の相互行為や、さらなる学習を鼓舞するスキル、気持ち、態度に関係していない (James and Brown, 2005)。
Pellegrino et al (2001)によって提唱されたアプローチはいくつかの疑問を引き起こしている。まず診断は、相互行為を含む形成的な活動を始点としている。
2つ目として、教室内で形成的な相互行為の性質を考慮するとき、学習者が持つ理解や習得の特徴を相互行為から独立して分析することはほとんどできないということである (Teasdale and Leung, 2000)。
認知は社会的に構造化され、相互行為の中で始まる。モデルに基づく認知の診断は、学習が起こっているgrowing pointで安定した観察が求められるが、そのポイントはほとんど予測ができない。
3つ目は、著者らが使用するemergenceという単語は、学習のゴールであるhigher order skill (e.g. communicative
language ability)は、カリキュラムを構成する言語的要素とは質的に異なるものであるということを論じる時に使用する。
いわゆる認知発達モデルは、学習マテリアルの全体を通して得られる定められた成長プロセスを提唱している (Shavelson, 2008, 2009)。そして、Shavelsonはこのようなモデルの早まった適応に警鐘を鳴らしている。何故ならば、完成度が高い形成的評価は規則を減らしにくく、教師の高い専門性に委ねられるからである
産出に対するプロセスを強調している社会構成主者は、学習に基づく評価のモデルを開発・発展させることに寄与する強力な概念を立証してきている。
3.3 Task-based interaction
LOAを社会構成主義のパラダイムにおいて、学習に基づいた授業の相互行為 (learning-oriented classroom interaction)の性質についてもう少し分析してみよう。
相互行為は学習における心臓である。Vygotsky (1986)は、全ての認知を社会的に構築されたものとして見ている。ここで、Vygotskyの立場と、学習は学習者の容量を少し超えたレベルで、理解可能なインプットに晒されることで起きると提唱したKrashen (1982)を比較してみよう。
Krashenは、チョムスキーの言語習得観の立場をとっている。加えて、形式に関する言語教授は不必要であり、働かないとまで主張している。
Krashenが提唱したi+1とVygotskyが提唱した(zone of proximal development: ZPD)は一見したところ似た部分がありそうだが、実際は全く違っている。
LADはブラックボックスである一方で、Vygotskyは豊富に行われる相互行為に基づく学習理論をZPDに与えている。
言語学習において、相互行為の重要性はようやく認識されてきた。SLAは「言語学習を導くもの」としての相互行為という見方から、「言語学習が実際に起こる場所」としての相互行為へと見方をシフトしてきたとEllis and Barkhuizen (2005)SLAは主張している。
Swain (1985)が提唱したアウトプット仮説において、産出と練習は学習者が言語についてテストし、仮説を検証することを可能にさせる自己モニタリング (self-monitoring)にとって必要であると主張している。
しかし最近では、Swain (2001)は相互行為という点で学習を定義している。つまり、「学習は、状況に即した活動内において、構造化という連続的なプロセスを踏みつつ、学習者の取り組みによって生起する意味の拡張として理解される」としている。
相互行為における文献は、task, goals, scaffolding, feedbackなど学習に基づく評価のモデルを定義するために役立つような様々な概念について言及している。以下のセクションではこれらの概念についてレビューしていく。
3.3.1 Tasks
言語教育におけるタスクに基づくアプローチは社会構成主義の立場に即している。4.2でも示すが、タスクの概念はCEFRの行動に基づくモデルの中心部分である。Van den Branden (2006)は異なる著者から示唆されているタスクに基づくアプローチの定義を比較している。
与えられた情報からある思考の流れを通してoutcomeにたどり着くことを必要とさせるようなタスクであり、教師がそのプロセスを制御しコントロールすることができもの (Prabhu, 1987)。
学習者の注意が形式よりも意味に向いているあいだに、目標言語における理解、操作、産出、相互行為に学習者を含ませる教室活動の1つ (Nunan, 1989)。
学習者の認知的またはコミュニカティブな手順を含んでおり、個々に異なり、連続的であり、かつ問題解決活動の1つ。そしてその活動は、社会的環境の範囲内で集合的な探索や、予測の追求、創発的な目標の中で、既存または新規の知識を応用するもの (Candlin, 1987)。
以下のことを含む活動である (Skehan, 1998)。
-意味が第一
-解決すべきcommunication problemが存在する
-現実の活動と同様な関係を持つ
-タスクの評価は、outcomeに基づく
学習者の選択や再理解を促しやすいということに影響される活動であり、意味に焦点を置きつつ、目標となるものを獲得するために言語使用を行わせるもの (Bygate, Skehan and Swain, 2001)。
上記の定義を見ると、それぞれの著者はタスクに基づくアプローチの異なる側面に光を当てている。社会構成主義の立場に沿ったタスクの定義は、“purposeful use of language to communicate
personally significant meanings”を導くものである。
教室学習 (instructed leaning)において、タスクは組織的な原理を与えるかもしれないし、与えないかもしれない。しかしタスクに基づくアプローチを用いて導かれる示唆は、学習というものは、言語的に組織されたシラバスの場合よりも、全体的かつ機能的でコミュニカティブなものであるということ。
3.3.2 Supporting learners’ performance on tasks
Prior knowledge
「学習に影響を与える最も重要な要因は、学習者はすでに何を知っているのかということである」というように、先行知識 (prior knowledge)の重要性は、Ausubelによる偶発的指導の原理において主張されている。
もし教室活動が確かな先行知識を仮定した場合、最初のステップは生徒がその知識を処理しているかどうかチェックすることから始めることである。
Shepard (2000:10)では、「先行知識とフィードバックは確立した概念であり、学習理論として再検討されなければならない意義は、社会的または文化的文脈を考慮に入れるよう変えることである」としている。
Explicit criteria
規準 (criteria)を学習者と共有することは、Black and Wiliam (1998b)によって提唱された形成的評価の4つの基本的な原則のうちの1つである。これは、自己評価をする能力を発達させるための基本的なものである。
Frederiksen and Collins (1989: 30)は、生徒は良い課題解決や良いライティングが持つ重要な特徴への意識を発達させるために補助されなければならないとしている。また、特徴への意識だけでなく、それらを達成するための心の持ち方への意識も含めている。
Scaffolding
Shepard (2000)は、教育上の足場がけは、社会構成主義の立場を取り入れた学習を反映するように与えられる相互行為的なフィードバック (interactive feedback)であるとしている。
Wood, Bruner and Ross (1976)の足場がけは、「子どももしくは初心者がタスクを解決できるように、もしくは彼らの独力を超えるであろうゴールを達成できるような方法」として定義されている。
効果的な足場がけの技術は以下のことを含んでいる。
学習ストラテジーを明らかにすること (目標はどのようにして達成されるのかについて再構築する)
タスクの困難度の構築すること、問題解決に対して共同的に参加すること、学習者の注意をタスクに向けさせること、そして学習者を動機づけるさせること
与える助けの度合いを変えること-つまり、助けは生徒のパフォーマンスレベルに応じて調整すること
学習にとって必要なエラーであるとしてエラーに機会を与える
繰り返しや文脈に埋め込むこと、授業と教室活動の間につながりを引き寄せることを入れることで、学習者が必要としている活動の認知的複雑性を変えること
効果的な足場がけを行うには、教師はタスクに関する知識や生徒に関する知識を持つことが求められる。教師はどの誤りに対して指摘するのかまたどのレベルの助けを与えるのかを決めなければならない (Wood et al., 1976)。
Goals
学習のゴールは、より高いものかつカリキュラムやマテリアルに記されている公式のレベルで形成されている。しかしタスクを達成する上で重要なことは、相互行為の中でそのゴールが参加者 (教師や生徒)からどのように見られているのかということである。
目標は教師によって決められるが、重要なことは学習者によっても決められるということである。James and Pedder (2006)は、learning or mastery
goalとperformance goalの違いを指摘している。
1つ目の特徴は、「能力向上に励む」、「何か新しいことを理解するもしくは習得する」学習者に基づくゴールである。2つ目の特徴は、「能力の記録や能力の好ましい審査を望む」、「能力の否定的な審査を避けることを望む」ような学習者へのゴールである。
上記で示してきた文献は、個人の多様な特性や学習の性質に関する前提は学習に対して良くも悪くも影響を与えることを示してきた。そして、必然的にフィードバックのかたちにも注意を払わなければならない。
3.3.3 Feedback on task performance
Shepard (2000)は、社会構成主義の原理に基づくフィードバックを足場がけと解釈している。一方、フィードバック単語自体は形成的評価の期限まで遡る。
Ramaprasadは、もし与える情報がギャップを変えるよう使われない場合、フィードバックは全くないと主張し、Black and Wiliam (1998a)は、フィードバックの質は重要な決め手であると結論づけている。
しかしながら、学習者はフィードバックに対して違った対応することが判明しており、何が良いフィードバックなのかを特定するのはより難しい。
Kluger and DeNisi (1996)は、フィードバックに対する学習者の典型的な対応を特定している。
学習者が高い取り組みや自己肯定感を持っている場合、標準に近づこうとする
学習者の自己肯定感が低い場合、その標準を完璧に排除する、標準を変える、フィードバックを拒む
3.3.4 Aspects of leaning
Transfer
Shepard (2000)は、真に概念を理解することと知識を転移させること、そしてそれを新しい状況で使用できることの間に近い関係があるとしている。記憶と対照的に真の理解は柔軟性であり、繋がりがあり、一般化されるものである。
Deep and shallow learning
理解を伴う学習 (leaning with understanding)や深い学習 (deep leaning)という単語は、形成的評価と総括的評価の違いを特徴づけるためにHarlen and James (1997)によって用いられている。
深い学習は形成的評価のゴールであり、浅い学習は総括的評価の準備の結果として保持される。
深い学習は、「学習者がこの世界を理解するための方法である」という意味において、学習者自身によって保持されるものである。?????
3.3.5 Emergence
創発 (emergence)は、このテキストにおいて重要な概念である。言語的要素 (grammar, vocabulary etc)の意識的学習と、言語的要素とは質的に違いかつそれ以上簡単にできないとされる高次のシステム (higher-order system)の間にある質的な大きな変化を記述する。
これは教育において重要な示唆を与えるとしている。コミュニカティブな言語能力の創発は、単純な内容の転移では説明できない。つまり、高次の対象はPPP アプローチのみで達成されるものではないと考えるべきである。高次のスキル (higher-order skills)の創発を促進するような相互行為を、学習に基づく授業において重要なものとすべきである。
ここで、Assessment Reform Group (2002: 2)によって作成された学習に基づく評価の描写を注意深く読んで、higher-order skillsとlower-order skillsの違いを説明しよう。
教師と学習者が授業で行うことの大半は評価であると言えよう。つまり、タスクや問題は学習者が持つ知識や理解、スキルを表に出させる。教師は学習者の言動を観察・解釈し、そこから学習はどのように向上されたのかに関する判断が下される。このような評価プロセスは教室活動全体において重要である。また、その過程は教師や学習者を反省や問答、意思決定に取り組ませる。
ここで明らかなことは、教師と学習者は知識量の程度はあれ、学習の相互行為 (learning interaction)を構築する活動者であるということである。一方、明らかではないことは学習の相互作用によって使われると考えられる認知のレベルである。
メタ認知的なレベルでは、反省や問答、意思決定が生徒の誤りを特定し、協議し、訂正することに焦点をおくために、教師の教育的意図によって相互行為がもたらされるであろう。
一方、認知的レベルでは、学習を「個人的に意義のある意味を伝えるために使用される目標思考的な言語使用」によってもたらされるとみなすことができる。そして、社会構成主義による洞察に従うのであれば、ここに学習が生じることとなる。
3.4 Roles of teachers and learners
良い学習者と教師は、効果的な手順を踏めば生み出すことができるということではない。先例の中には、扱うべき問題が様々な文脈の中に存在する。以下ではそのような問題の例を見ていく。
The learner
オーストラリアの例では、Sadlerは「生徒に対して欠陥のある形成的評価を長い間晒すこと」を改善したいのだが、それが難しいことを指摘している。また、スイスの例では、Perrenoud (1998)は勉学に励み形成的評価に取り組む生徒がいる一方で、自分は悪い生徒であると認識してしまう生徒もいる。
このような問題では、学習者自身に学習者としての良いイメージをつけさせることが重要である。社会構成主義に基づく授業でも、より肯定的な性質を発達させる理想的な文脈を学習に提供すべきである。
Self- and peer assessment
良い学習を行うためには、学習者は自律的になり自分で決定できるようになければならない。これを行うために、自己評価の能力は欠かせないものである。加えて、peer-assessmentも効果的である。
Motivation
学習に対するモチベーションは、直接的には達成に繋がらないけれども、学習を持続させる生徒の気持ちに影響を与える。また、何が生徒を動機づけるのかに対するより良い理解は、教育的な決定に有益な情報を与える。
最近のモチベーション研究 (Dörnyei, 2006)では、「理想化された自己イメージ (idealized self-image)」の概念を取り入れている。この概念はgroup membershipという社会構成主義に関係している。
The teacher
形成的評価に関する文献は、LOAにおける教師の役割は非常に重要であることを明らかにした一方で、その難しさも明らかにした。
困難さを起因する原因として、外部の総括的評価に対して過度に焦点が向いている政府の方針であったり、長年教師を経験して形成された指導に対する信念や憶測などがあげられる
The teacher’s role in learning
このような状況で一番重要なことは、教室におけるコントロールの中心をどこにするのかということである。James and Pedder (2006:117)は、「もしゴールが生徒に対して自律的、独立的、積極的なな学習者になってもらうよう働きかけることであるならば、コントロールの中心は教師から生徒へ移行する必要がある」と述べている。
信念を変え、上記のような基本的な方法による実践になれるためには、教師はLOAの基本的原理から理解しなければならない (James and Pedder, 2006)。
The teacher’s role in classroom assessment
Rea-Dickinsは教師が「指導」や「カリキュラム通り」のモードに入る場合、学習者の取り組みや言語的発達の機会を見逃してしまうと主張している。
重要なことは、「全ての評価は形成的であるべきだということではなく、バランスのとれた評価方法を使用すること」であるとしている。それを行うためには専門的な知識が必要である。
The teacher’s role in summative assessment
2.2.3で見たように、総括的評価において教師は重要な役割を持っていることが多い。そしてそのインパクトは言語の場合においてよりめざましいものとなっている。